2019年9月号エスト賃貸経営新聞の賃貸経営新聞 | 埼玉の不動産投資・収益物件・建物管理|株式会社エストハウジング

2019年9月号エスト賃貸経営新聞

注目の「改正民法」がいよいよ来年4月1日からスタートします
裁判判例や一般的な理解内容をルールとして明記


明治29年に制定されて以来の改正となる「民法」の債権関係の法律、「改正民法」がいよいよ来年4月1日から施行されます。
契約ルールの抜本的な見直しとなる改正によって、「敷金」や「原状回復」「連帯保証人」の取り扱いに新ルールが定められます。

まず気になる敷金の取り扱いですが、賃借人の債務を担保する敷金について、「賃貸人は賃貸借が終了し、賃貸物の返還を受けたとき、または、賃借人が適法に賃借権を譲渡したときは、賃借人に対し、敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務を控除した残額を返還しなければならない」。

また、「賃貸人は、賃借人が金銭債務を履行しないときは、敷金を当該債務の弁済に充てることができる」とした規律を設けています。
長年の商習慣で、担保としての預かり金である敷金の内容が、法律によって明確にされたものです。

原状回復義務に対しては、2面に詳しくまとめていますが、現行では、敷金を原状回復費用に充てて、修理代金を差し引いて返却する「敷引特約契約」が多いのですが、改正法では、貸主は借主に契約終了時に敷金を返却するように義務づけています。

要は、敷金は「賃貸借契約が終了したとき、賃料の不払いがない場合、借主に返還しなければならない」と明文化、ルール化されるものです。
原状回復についても「通常の使用による損耗、経年変化の損傷を除く」と明記されています。

国土交通省が作成した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」をはじめとする、これまでの裁判の判例や一般の理解に沿ったものが判断のベースとなっています。

連帯保証人の件ですが、保証人保護の観点から極度額(保証人が保証する限度額)を定め、かつ書面等で補償契約をしなければ、補償契約の効力が生じないと規定しています。

これまでの商習慣からより法律に沿った運用に

敷金の取り扱い、原状回復義務、連帯保証人との契約について見てきましたが、基本的なことは明確に規定されていなかった部分をこれまでの裁判判例や一般的な理解をルールとして明記、定めた点です。

従来、賃貸住宅の契約には消費者保護の観点から宅地建物取引業法を中心に、借地借家法、消費者契約法、民法等が厳格に運用されてきたのを、現行民法を改正して基本的なルールの明文化を図ったものです。

こうした新ルールが打ち出されたことで、今後は恣意的な捉え方が影を潜め、法律に沿った運用が広まると見られ、賃貸経営のスタンスにもこれまでの商習慣から一歩引いた発送の転換が求められそうです。

なお、国土交通省から住宅の賃貸借契約に関連する民法改正の主な条文を解説した『住宅の賃貸借契約に関する民法改正の概要』が、同省のホームページで公開されています。




実用化進む「ブロックチェーン」
本格的な運用を前に技術的なハードルや
業界コンセンサスなどに今後の課題残す



AIの導入を始め、業務のIT化、情報のデジタル化の推進が相次ぐ賃貸住宅市場で、次世代データベースと呼ばれるブロックチェーン技術によって、賃貸契約がスマートフォンで完結できる時代もそう遠くないところまできました。

ブロックチェーンとは、「ブロックと呼ばれるデータの単位を生成し、チェーンのように連結していくことによりデータを保管するデータベース」(ウィキペディア)。
このブロックチェーンに情報管理システムを構築することで、情報の共有が進められます。

まだ、世界中で不動産の賃貸契約にブロックチェーン技術を実用化した事例はないのですが、物件検索から入居手続きまでを行うアプリやシステムの開発が進んでいるので、一部の実用化は近く、本格稼働はここ数年内に見られそうです。

それでは賃貸住宅市場にブロックチェーンが果たす役割は何かということですが、物件管理、物件案内、文書処理・管理、入居者管理などがスピーディに処理されると期待されています。

不動産マーケットに大きな変化生じそう

いわばデジタル化された情報を整理・加工する業務が格段に機能アップすると見られるもので、運用次第で不動産マーケットの形態にも大きな変化が生じそうです。

もともと不動産業は情報産業をたとえられるように、膨大なデータを仕分け、整理して再発信するビジネスですから、データベース化に適しているといえます。

今後の本格的な運用には、まだ技術的なハードルが高く、業界全体のコンセンサス、安定したシステム供給、ネットワークの構築、法改正なども未整備ですので、もう少し時間がかかりそうです。




ニュースフラッシュ
昨年1年間の首都圏の投資用マンション増加
今後の市場も安定的に推移する見込み



昨年1年間に、首都圏で発売された投資用マンションは161物件、7816戸で、昨年の122物件、6074戸と比べると、物件数は32%、戸数は28.7%、いずれも増加していることが、不動産経済研究所が発表した「2019年上期及び2018年年間の首都圏投資用マンション市場動向」で分かりました。

一方、今年1~6月の上期に供給された投資用マンションは71物件、3196戸で、前年同期の93物件、4623戸に比べて物件数は23.7%の減少、戸数も30.9%減少しました。

また、今後の首都圏の投資用マンション市場は、都心エリアの用地取得は競争が激しく厳しい状態が続くものの、当面の供給は城東や城北、神奈川県などに軸足を移して安定的に推移する見込み。

しかし、さらに地価が高騰してそのようなエリアでの低価格帯の住戸の供給が落ち込むことになれば、首都圏以外のエリアや中古市場へさらに人気が流れてしまう可能性もある、としています。




「IT重説」が本格スタートして3年目
重説に限らず業務のIT化が進む


重要事項の説明をパソコンやテレビ会議等のITを活用して行う「IT重説」が本格スタートして3年目を迎えようとしています。
社会実験も始められた最近の動向をまとめてみます。

IT重説がスタートして3年目を迎えることから国土交通省は、問題点を確認するためにこの10月1日から3ヵ月間、賃貸取引におけるITを活用した重説の社会実験を始めます。

IT重説の主なメリットとして、①遠隔地の顧客の移動や費用等の負担軽減②重説実施の日程調整の幅の拡大③顧客がリラックスした環境下での重説実施④来店困難な場合でも本人への説明が可能などが挙げられます。

国土交通省は、円滑、適正にIT重説を実施するために、IT重説に係わる遵守すべき事項、留意すべき事項、具体的な手順、工夫事例を紹介する「賃貸取引に係わるITを活用した重要事項説明実子マニュアル」を作成して積極的な運用を勧めています。

未来型としてメリット多いが対面説明にやはり強い説得性

なお、お客様からIT重説を求められた場合でも、宅建業者自らのIT環境や案件の特性を踏まえて、宅建業者はIT重説の実施の可否について判断をすることができます。
また、貸主等の同意の取得や顧客のIT環境の確認ができない場合には、顧客が求めていてもIT重説は実施できません。

ITを活用した重説はメリットも多く、将来的には広まっていくと見られますが、今はまだ過渡期で、従来の対面での説明、書面交付が主流となっています。

物販と違って、一時のお金のやりとりで商談が完結するのではなく、賃貸借契約を結んで、できるだけ長く入居してもらうためにも、どうしても特約などの説明の最初の確認に、膝を交えての説明が重きをなすことが背景にあります。

ただ、重説に限らず業務のIT化の推進、電子契約、ペーパーレス化、さらにはスマート化の促進は賃貸業界にとって大きな流れとして必須の事と見られますので、IT重説の取り込みはもう少しすれば拍車がかかるのではないでしょうか。




賃貸経営ワンポイントアドバイス
通常消耗、経年劣化の損傷に賃借人は
原状回復の義務なしと明文化かれる



原状回復にトラブルが集中

今年上半期に国民生活センターと全国の消費生活センターに寄せられた賃貸経営の敷金・原状回復に関連するトラブルの相談件数は2388件に上ります。
前年比15%ほど減少しているものの、依然、退去に伴う敷金の取り扱いと原状回復によるトラブルが集中するようです。

敷金精算と原状回復に要する経費については、背中合わせのような性格を持つのですが、来年4月1日の改正民法の施行後も、基本的な対応については現状と大きな変化はありません。

新ルールでは、原状回復義務に対して、「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く)がある場合、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由のときは、この限りではない」としています。

つまり、「改正前民法には明確に規定されていなかった賃借人の原状回復義務に関する規律の内容を明らかにするもので、通常消耗等の回復は原則として、原状回復義務の内容に含まれないとする判例法理を明文化したものです」(「住宅の賃貸借契約に関する民法改正の概要」)。

つまり、これまでの話し合いや国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参照して解決してきたことを法律でルール化して、トラブルを未然に防ぐのが基本となっています。
従来は参考レベルであった国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が、より強く判断のベースになりますが、これまでのルールを変えるものではありません。

国土交通省の「ガイドライン」が広まって20余年が経ったことから、これまでの実績や裁判の判例を尊重して、これからの原状回復はこうした判例法理に沿うものです。




過去の記事はこちらから
エスト賃貸経営新聞一覧