2020年5月号エスト賃貸経営新聞の賃貸経営新聞 | 埼玉の不動産投資・収益物件・建物管理|株式会社エストハウジング

2020年5月号エスト賃貸経営新聞

各自治体の相談窓口や「お役立ち情報」などを相談者の入居者に紹介
国から状況に十分配慮した丁寧な対応を求められる


政府から緊急事態宣言が発令され、国を挙げて新型コロナウイルス対策が打ち出されています。
不動産の景況感の先行きについても、後退局面が不安視されています。
賃貸住宅経営の側面からコロナウイルス対策と原状の問題点をまとめてみました。

アパート・マンションの賃貸経営に新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言は、今後、どのように影響を及ぼすでしょう。
日々、状況が変化していますので、あまり先々のことは書けないのですが、現状の問題点を整理してみます。

賃貸住宅の対する国の指針として、国土交通省から「新型コロナウイルス感染症に係る対応について」が賃貸住宅関係団体宛に通達され、経済産業省からは「住居確保給付金」などの取り扱いがそれぞれ公表されています。

賃貸住宅関係の団体向け通達は、「賃貸住宅に居住している新型コロナウイルス感染症の影響を受け、生活に困窮している方に対し、その置かれた状況に十分配慮した丁寧な対応をお願いします」といったものです。
ついては、入居者から相談を受けた場合には、各自治体にある生活困窮者自立支援制度の相談窓口や「新型コロナウイルス感染症 ご利用くださいお役立ち情報」を相談者に紹介してほしいとしています。

ところで、人の動きが緊急事態宣言によって抑制され、引越しの数が減少した上に新築の賃貸住宅の供給が鈍るため、入居者の囲い込みが少しやり易くなるといった見方があります。
つまり、退去があまりなく、入居者の定着が続くという意味です。

よく例に出されるピンチをチャンスに変える発想です。
入居者の移動機会が少なくなった分、物件の価値を高めて、高性能・高付加価値を図れば、入居者の囲い込みができるのではないでしょうか。

今後、注意することは家賃滞納

また、危惧されることは、賃料支払いの遅延の発生です。
感染拡大と共に人員解雇が相次ぎ、契約社員やサービス業で働く層への影響は甚大なことから、賃料の支払い遅延、そして家賃滞納が起きる背景が揃っています。
今後、感染拡大が落ち着くまで、賃貸経営の側面から注意することは、家賃滞納といえそうです。
家賃滞納については、2面の「住居確保給付金」でも取り上げています。

「感染症の状況が落ち着き次第、間髪を入れずに反転攻勢に打って出る」との緊急事態宣言発出時の国土交通大臣の発言にある通り、終息後の早期のV字回復に期待したいものです。

なお、新型コロナウイルス対策の不動産・賃貸住宅に関連する情報は、国土交通省のホームページ『新型コロナウイルス感染症に関する対応』から最新の対応策が公表されています。


新型コロナウイルス感染症・緊急事態宣言
賃貸住宅経営の主な問題点


◆事業者向けに支援措置を拡充
 ・資金繰り支援 「新型コロナウイルス感染症特別貸付」(日本政策金融公庫)
         「セーフティネット保証」(信用保証協会)
◆生活困窮賃貸入居者への対応
 ・入居者相談者に「住居確保給付金」を紹介
◆ピンチをチャンスに変える発想も
◆今後の家賃滞納発生に備える




テレワークと賃貸市場
感染の広がりを受けて対面中心からWeb接客、IT・デジタル化が加速


国の緊急事態宣言の発令とともに、感染拡大防止のための外出自粛の要請が各地で出され、ほぼ同時期に、在宅勤務のテレワーク推進が多くの企業で見られます。

そこで、賃貸市場におけるテレワークとの関係を見ますと、近年、業務の一部にIT化が急速に進んだ部分がありますが、まだ対面して決める部分が少なくありません。
社内の仕事は別にしてもお客様との打ち合わせは対面ベースとなります。
とくに管理の業務ではヒューマンクレームの対応がメインとなるため、当事者と直接会って解決を図るということになります。
部屋を探す顧客が物件に関する情報を収集する方法として、国土交通省の行った最新の「住宅市場動向調査」では、不動産業者が全体の半数を占め、次いでインターネットと、賃貸物件を探す窓口は仲介不動産会社がトップとなっています。
これはここ5年間ほぼ変わらない傾向で、主流は不動産会社とインターネットのようです。

Webシステム推進の流れは既定の路線として加速

インターネット、スマホのソーシャルネットワークサービスがこれだけ普及しても、人と人とが対面して物件を詳細に吟味し、納得した上で契約を結んでいるのが現状です。
賃貸市場において、部屋を探す基本は入念に入居条件・設備等の説明を受けた上、信頼できる不動産会社の窓口で契約するスタイルがベースとなっているのです。

ただ、こうした対面中心の仲介業務も今回のコロナ感染の広がりを受けて大きく修正され、Webシステム、IT・デジタル化が加速すると見られます。

今後、緊急事態宣言が解除された後もWeb接客・対応推進の流れは、規定の路線となるのは間違いありません。




ニュースフラッシュ
賃貸住宅向け「アパートローン」の新規貸出額、
平成28年度をピークに減少傾向



国土交通省はこのほど、「令和元年度民間住宅ローンの実態に関する調査」結果を公表しました。
調査対象は国内の銀行、信用金庫、信用組合、農協等の1,340機関です。

それによりますと、平成30年度の賃貸住宅向け新規貸出額は2兆7,002億円で、前年度より1兆1,280億円減少し、経年集計では30年度の賃貸住宅向け新規貸出額は、対前年度比14.6%減です。

賃貸住宅向けの「アパートローン」の新規貸出額については、平成28年度をピークに減少傾向で、業態別に見た新規貸出額の内訳は、地方銀行が最も多く1兆1,036億円。
次いで信用金庫、都銀・信託銀行他、農協、信用組合の順となっています。

なお、30年度末の賃貸住宅向け貸出残高は29兆7,725億円で、29年度末より1兆3,767億円減少。
経年集計では30年度末の賃貸住宅向け貸出残高は、対前年度比3.1%増で、貸出残高でも地方銀行が最も多く11兆3,841億円です。




家賃を期限付きで支給する「住居確保給付金」
もっともタイムリーな公的支援の家賃救済策


新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言に伴い、自粛が広がっている現在、賃貸住宅市場で懸念されているのが家賃滞納です。
コロナウイルス禍に即した総合的な対策が求められています。

通常時の家賃滞納でしたら手順を踏んだ督促が採られるのですが、何分緊急時ともいえる時ですから、今後起きるかもしれない家賃支払い遅延、未納、滞納に対する基本的な方針は固めておくべきと考えます。

家賃滞納はどうしてもある一定の割合で起きています。
ただ、月初に発生した滞納も1ヵ月か2ヵ月目で落ち着く傾向にあります。
問題は2ヵ月以上の滞納です。
これも通常時なら、家賃の入金が滞った時点で、電話をかける、メールを入れる、直接会うなど直ちに連絡するといった方法があり、一番いいのは入居者当人と直接話すことです。

とにかく最初の連絡が極めて大事で、ここでグズグズすると、後に尾を引く結果となります。
滞納は月にまたがり重なって長期化すると、支払いはさらに困難を増していく傾向が強くなります。
しかし、こうした方法が今回のコロナ感染の拡大で、雇用を失い収入が断たれた入居者にどこまで応用できるかということになります。

生活に困窮している人に対し十分に配慮した丁寧な対応を

国、自治体から打ち出されている各種の補填は流動的で、日々更新されています。
住居に関する救済措置としては、厚生労働省から「民間賃貸住宅事業者から紹介による住居確保給付金等の相談があった場合の適切な対応について」が、国土交通省からは「新型コロナウイルス感染症に係る対応について」が賃貸住宅関係団体宛に出されています。

ポイントは、民間賃貸住宅に居住している新型コロナウイルス感染症の影響を受け、生活に困窮している人に対し、十分に配慮した丁寧な対応を、さらには、居住者から相談を受けた場合は、各自治体の「住居確保給付金」を取り扱う「生活困窮者自立支援制度の相談窓口」を相談者に紹介するようにお願いします、といったものです。

つまり、家賃支払いに困窮をきたした人に、「住居確保給付金」の相談窓口を紹介することを都道府県及び賃貸住宅の関係団体に強く要望しています。

今のところ、賃貸住宅の家賃を期限付きで支給する住居確保給付金が、公的支援として最もタイムリーな家賃救済策といえそうです。


「住居確保給付金」の概略
・離職等により経済的に困窮し、住居を失ったり、失う恐れのある人に対して、求職活動等を条件に一定期間、家賃相当額を支給。
また、離職等により経済的に困窮し住居を失った者だけではなく、賃貸住宅に居住しながら、住居を失う恐れがある人も支給対象。
・支給要件=収入要件、資産要件、就職活動要件
・支給額=賃貸住宅の家賃額(東京都1級地の場合:単身世帯5万3,700円、2人世帯6万4,000円)。
・支給期間=原則3ヵ月間(最多9ヵ月まで)。




賃貸経営ワンポイントアドバイス
「賃借物の一部使用不能による賃料の減額」
改正民法では賃料減額請求を踏み込んで規定



「減額請求ができる」が「減額される」に

4月1日から「民法の一部を改正する法律」がスタートしました。
今回の民法改正の重要なポイントの一つに、連帯保証人の極度額の取り扱いがあります。
このほかにも「賃借物の一部使用不能による賃料の減額」について、今後の賃貸経営上心掛ける項目としてチェックしておきたいと思います。

入居者が普段生活していて、トイレやエアコンなどの設備が故障・破損した場合、オーナーには故障・破損を修理する義務があります。
しかし、対応が遅れたりして入居者が不便をきたし、通常の居住ができなくなった時、賃料はその滅失部分の割合に応じて減額されます。

改正前は、「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人はその滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる」とされていましたが、改正民法では、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料はその使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて減額される」となりました。

つまり、「賃料減額を請求することができる」が「減額される」と、一歩踏み込んで賃料減額のあり方を規定しています。
賃料減額の基本的な考え方として、賃料が減額される要件は、通常の居住ができないこと、借主に帰責事由がないことが挙げられています。

物件の一部が滅失等により使用できなくなった場合に、それが借主の帰責事由によるものでない時は、使用不可の部分の割合に応じて賃料が減額されるとし、その内容は買主と借主の間で協議することとしています。

「賃借物の一部が滅失、その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」を判断する基準が明確ではないのですが、『民間賃貸住宅に関する相談対応事例集』(国交省)などが参考になります。

その中で、「円満な賃貸借関係を継続する観点からも、貸主と借主双方が誠意をもって協議し、解決することが、望ましい基本的な対応になるものと考えられる」とまとめられている通り、法律が整備されましたが、運用に際しては入居者との信頼関係に基いて対応する姿勢が重要となっているようです。